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「よいしょっと。これで全部かなっ」
 荷物を詰め込んだリュックをぽんっと叩いて、すっかり殺風景になってしまった部屋をぐるりと見渡す。
 約半年間住んでいた自分の部屋。それなりに愛着もあるが、ここを離れる事自体はさほど寂しい事でもない。
 そう、部屋を離れる事自体は。
「今日で……最後なんだね」
 彼女が滞在していた旅団『厄罪視』の解散。皆で決めた事であり、その選択をした事に後悔はないが、やはり寂しい気持ちは出てきてしまう。
 フラヴィは一度ぺこり、とお辞儀をしてからリュックを背負って部屋を出た。
 本当はもう少し感傷に浸っていたかったのだが、あまり長くいすぎると泣いてしまいそうだった。こんな時こそ笑顔、を心がけている少女にとってそれは望む所ではない。
 足早にいくつかの部屋を通り過ぎ、建物の外に出る。心地良い春の陽射しがフラヴィを迎えてくれた。
 そのまま歩き出そうとした時、ふと一本の木が目に止まる。
「あの木……初めてここに来た日に私が登った木だっけ」
 その後団員の人が対抗するように登ってきて、よく分からない木の実をかじって倒れたのを思い出す。
 慌ててお姫様抱っこをして木から飛び降りたのたが、それから皆の自分を見る目が若干変わったような気がする。
 結構ぎりぎりだったし、そんなに力持ちじゃないのになあ……と、思わずちょっとむくれてしまう。むしろ力仕事は苦手な方だし、恐ろしい等と言われるのは女の子として少々複雑なのだ。
 あの人は強い女の子好きかなあ、とあらぬ方向に行きそうなった思考を慌てて首を振って四散させる。
 何かにつけてそちらに結び付けようとしてしまうのは、思春期の女の子故か。
「……最後に、挨拶位はしないとね」
 考え事をしながら歩いていたら、いつの間にか大分建物が遠くなっていた。
 リュックを一度下ろしてそちらに向き直る。
「……今まで、いっぱい、いっぱい、ありがとう」
 もうここに戻ってくる事は、恐らくない。
 けれどこの場所で繋がり、培ってきた絆は。きっと再び、自分達を引き寄せてくれるはず。
 ただの願望かもしれない。それでも、そんな気持ちを込めてフラヴィは大きく叫んだ。


「行ってきます!」

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アルさんから回ってきました。

過去ブログで語ってるので他に言う事あるんだろうか、と思いつつ。
見返してチェックしたり被る部分排除する作業は多分時間かかるので深く考えずいきます。
初期と比べ設定の大半が確定になった事もありますし。
ざっと見たらフラヴィが言う(言える)事ほとんどないので全部背後で。


 ――夢を見ていた気がする。
 どんな内容だったかは覚えていない。
 ただ汗でぐっしょりと濡れたパジャマと、頬にうっすらと残っている液体が流れた感触が、それが決して良い夢ではない事を伝えていた。

「……また、あの夢を見たのかな」

だるさが残る身体を起こしながら、夜中に目が覚める事がなくてよかった、とフラヴィは小さく安堵の息を漏らす。
 今より幼い頃の、嫌な思い出。
 一時期に比べたら見る頻度はかなり減ったものの、たまにこうして夢に出る事がある。
 克服したつもりでも、心のどこかではまだ引きずっているのだろうか。
 あるいは…。
 ふとお腹に目を落とすと、眠りながら抱えていたうにゅうさぎが、腕の中で笑ってこちらを見上げていた。
 その無邪気な表情に思わずくすっと笑ってしまい、ぎゅっとぬいぐるみを抱きしめる。

「ん、今日も頑張ろうっ」

 気持ちを入れ替えるようにパチッ、と両頬を叩いて気合いを入れ、ベッドから勢いよく飛び起きる。
 暗い気分を引きずっていても仕方がない。今日もお日さまのように明るく、元気に。
 早くいつもの身支度を整えると、フラヴィは元気よく玄関を開けた。

「いってきまーす!」

 今日は何が待っているだろう。どんな楽しい事があるだろう。
 見上げると空に浮かぶ太陽が、今日も一日を祝福するかのように暖かく世界を輝かせていた。

「……あ!ご飯忘れてたの!」
 エルフヘイムの戦いが終わってから数日。

 運び屋のフラヴィにとっては、むしろここからの方が正念場だったかもしれない。

 不足している物資の運送。復興の為の文書のやり取りの配達。依頼されれば、家族や友人の安否を直接訪ねて確認しに行ったりもする。

 できる事はいくらでもある。いつもは道に迷ったり途中でお菓子を食べて休憩したりと、本来の能力未満の仕事しかしないフラヴィもしっかり働いて、その成果で勤め先の人達を驚かせた。

 それと同時に、いつもは手を抜いていたという事もバレたわけだが……。

 幸いお咎めは特になく、代わりにある程度復興が完了するまで真面目に働くという条件で許された。

 年幼いという事で幾分少ない仕事量だったとはいえ、一応ノルマをこなしていた女の子を怒るのはあちらとしても気が引けたらしい。

 ともあれ……戦いの被害は決して少なくはなかったものの、人々は再び未来の為に歩き始めていた。

 そんな決して歩みを止めない人のたくましさを街のあちこちで見かける度に、フラヴィは少しだけ誇らしい気持ちになる。

 私達はこの光景を、ここに住む人達を、確かに守る事ができたのだと。

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